2007年 09月 27日
インド北部 リシュケシュ(2003)

ガンジス河沿いのレストランで、
朝食兼昼食をとる。
おなかがいっぱいになったら、
チャイを飲みながらぼんやり河を見る。
暑すぎず、寒すぎず、ほどよい日差しと、
そよそよ河から吹いてくる風が絶妙なバランス。
なんて気持ちいいのかしらと思っていたら、
ふと河に浮いているオレンジ色の物体に気づいた。
川岸に近い岩に引っかかってゆらゆらしている。
一瞬等身大の人形かと思う。
でも、人形って感じでもないということがだんだんわかってくる。
ぼんやりした頭のままで、
いっしょにいた友人に、
「あれってさあ、もしかして…」と言ってみる。
「・・・もしかして、だよね」ぼんやりしたままで彼が答える。
店の男の子に振り返る。「…もしかして、あれは?」
男の子、さもだからなんだよと言いたげに、「そう、それ」。
リシュケシュから離れたガンジス河の上流の山村では、
遺体を母なるガンジスに返す習慣が
まだ残っているのだそうだ。
あまりにきれいなオレンジ色が、
人体模型のようで、現実感が伴わない。
その前夜は満月だった。
あまりに月がきれいだったので、
ガンジス河の岸で焚き火をする。
ちょっとしたパーティになる。
同じ友人と、月の光でいっしょに絵を描いた。
ぼんやりしていた彼が、
「あっ!」という顔で前夜に描いた絵を取り出す。
岩らしきものにひっかかっている人間が描かれていた。
「まあ、結局は、インドだもんね…」
「そうそう、インドインド」
他にどう言えばいいのかわからなくて、
そう言ったものの、
私も彼もそれ以上言葉が見つからず、
水面に落ちた鯉のぼりのような、
オレンジ色の物体がひらひら動くのを見つめていた。
漂い続けるオレンジは、
こうして揺らいでいて幸せなんだろうか。
思った瞬間、「入れ物」でしかない「ゆらゆら」に、
幸せかどうかもないよな、と思う。
死の中に生があって、生の中に死があって、それがあたりまえ。
だいたいこの漂うオレンジと私を
決定的に分けているものなんてあるのかなあ。
答えの出ない疑問が頭をぐるぐるはしていたけど、
不思議と気持ち悪いとは思わなかった。
by shantiriot
| 2007-09-27 21:13
| 初インド旅エッセイ