2007年 09月 27日
インド北部 マラナ(2003)
そこにたどり着くには、
3時間の急斜面を歩いて登る以外に道はない。
旅先で会ったイスラエル人の旅行者達に
どうしても行こうよと誘われなければ
たぶん素通りしていた。
マラナが他の村と決定的に違うのは、
2000人余りしかいないその村だけの言語がある、
というだけではなかった。
村には、厳しい掟があった。
「村の外から来たよそ者に触ってはいけない。
触らせてもいけない。」
マラナの人たちは、アレキサンダー大王の子孫と言い伝えられている。
彼らにとって、私たちは犬以下のカーストというわけだ。
それなのに不思議と、いやな気持ちはしない。
歓迎されていないのはわかるけど、
特に拒絶されている気もしない。
不思議な感覚だった。
この村に来るのは勝手だけど、
自分たちは関わらないよ、
という態度のように見えた。
ゲストハウスも、他の村の人たちが経営している。
そりゃあそうだ。
よそ者を泊めるビジネスなんて村人がやるわけがない。
村の商店で買い物をするときは、
直接ものやお金の受け渡しはしない。
いったんカウンターにものなりお金なりを置いて、
それを相手が受け取る。
マラナの人の顔のつくりは、
他のインド人たちと明らかに違っていた。
どこか東欧っぽい彫りの深さ。
村を抜けた丘からは、
まぶしいくらい明るい緑のヘンプ(大麻)の畑が
山間一面を覆う。見渡すかぎりのライムグリーン。圧巻。
この村の経済は、これで成り立っている。
畑に降りていく途中の山道で村の女の子とすれ違う。
自分よりはるかに大きい草の束を背中にしょっている。
牛の落とし物を避けて一歩脇にそれた私が、
少しだけ彼女に近づいた。
その瞬間彼女が鋭い悲鳴をあげた。
「ごめんごめんごめん、さわってないさわってない!」
私のほうが焦る。
思わず両手を万歳のようにあげてしまう。
電車で痴漢と思われて
身の潔白をしめそうとする人って
こんな感じかしら、と思う。
夕方、村の中央広場で、
いっしょにいた旅行者といっしょに絵を描く。
すぐに子どもたちがわらわら寄ってくる。
私がスケッチしていた女の子が首を伸ばして絵を覗き込む。
それでも私たちと子どもたちの間には、
常に目に見えない壁が2mはキープされたまま。
私が動くと見えない壁も動く。
好奇心いっぱいの子どもらしい笑顔でも、
村の掟はしっかり理解しているのだ。
広場にある寺には、
"Don't touch anything. 1000Rs fine."
(何であろうと手を触れないこと。罰金1000ルピー)
という木札がかかっている。
罰金欲しさの掟だとも言われる。
そうかもしれない。
でも確実にこの村の人たちには、
明らかに自分とは違う次元の時間が流れているのだった。
非日常も毎日続ければ日常になる。
「普通」なんてどこにもないのだ。
よそ者の私に言えるのはそれくらいだった。
by shantiriot
| 2007-09-27 21:05
| 初インド旅エッセイ