インド北部 マラナ(2003)

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そこにたどり着くには、
3時間の急斜面を歩いて登る以外に道はない。

旅先で会ったイスラエル人の旅行者達に
どうしても行こうよと誘われなければ
たぶん素通りしていた。

マラナが他の村と決定的に違うのは、
2000人余りしかいないその村だけの言語がある、
というだけではなかった。

村には、厳しい掟があった。
「村の外から来たよそ者に触ってはいけない。
触らせてもいけない。」

マラナの人たちは、アレキサンダー大王の子孫と言い伝えられている。
彼らにとって、私たちは犬以下のカーストというわけだ。

それなのに不思議と、いやな気持ちはしない。
歓迎されていないのはわかるけど、
特に拒絶されている気もしない。
不思議な感覚だった。

この村に来るのは勝手だけど、
自分たちは関わらないよ、
という態度のように見えた。

ゲストハウスも、他の村の人たちが経営している。
そりゃあそうだ。
よそ者を泊めるビジネスなんて村人がやるわけがない。

村の商店で買い物をするときは、
直接ものやお金の受け渡しはしない。
いったんカウンターにものなりお金なりを置いて、
それを相手が受け取る。

マラナの人の顔のつくりは、
他のインド人たちと明らかに違っていた。
どこか東欧っぽい彫りの深さ。

村を抜けた丘からは、
まぶしいくらい明るい緑のヘンプ(大麻)の畑が
山間一面を覆う。見渡すかぎりのライムグリーン。圧巻。

この村の経済は、これで成り立っている。
畑に降りていく途中の山道で村の女の子とすれ違う。
自分よりはるかに大きい草の束を背中にしょっている。
牛の落とし物を避けて一歩脇にそれた私が、
少しだけ彼女に近づいた。

その瞬間彼女が鋭い悲鳴をあげた。
「ごめんごめんごめん、さわってないさわってない!」
私のほうが焦る。
思わず両手を万歳のようにあげてしまう。
電車で痴漢と思われて
身の潔白をしめそうとする人って
こんな感じかしら、と思う。

夕方、村の中央広場で、
いっしょにいた旅行者といっしょに絵を描く。
すぐに子どもたちがわらわら寄ってくる。

私がスケッチしていた女の子が首を伸ばして絵を覗き込む。
それでも私たちと子どもたちの間には、
常に目に見えない壁が2mはキープされたまま。
私が動くと見えない壁も動く。
好奇心いっぱいの子どもらしい笑顔でも、
村の掟はしっかり理解しているのだ。

広場にある寺には、
"Don't touch anything. 1000Rs fine."
(何であろうと手を触れないこと。罰金1000ルピー)
という木札がかかっている。

罰金欲しさの掟だとも言われる。
そうかもしれない。
でも確実にこの村の人たちには、
明らかに自分とは違う次元の時間が流れているのだった。
非日常も毎日続ければ日常になる。
「普通」なんてどこにもないのだ。
よそ者の私に言えるのはそれくらいだった。
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# by shantiriot | 2007-09-27 21:05 | 初インド旅エッセイ

インド北部 キリガンガ

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キリガンガは北インドの山間部パールバティバリーから
バスと歩きで丸一日かかる。
ここもインドの聖地のひとつだ。インドは聖地だらけなのだ。

訪ねてくる旅行者にテントを貸し出す小屋が2、3軒あるだけで、
居住区にはなっていない。
5時間黙々と山道をのぼるうちに雨が降ってきた。

キリガンガはヒンズー教の神であるシバ神の息子が
1000年だか2000年だか瞑想したところ、らしい。

ここらへんの時間の間隔に、
インドはすごいと思ってしまうんだけど、
雨に降られた私はびしょぬれだわ寒いわ逃げ場はないわ、
でキリガンガの神聖さなんてどうでもよくなってくる。

1000年でも2000年でも勝手に瞑想しててくれ、
あたしはもう帰るよ、と
後ろ向きモードになってきたところで、パッと道が開ける。

タイミングを同じくして雨がやむ。
あたりには霧が立ちこめ、
なんだか急に空が近くなった気がする。

「なるほどね、これだったら1000年くらい瞑想しちゃうよねえ」
急にものわかりがよくなる私。

月を見ながら温泉にはいる。トイレはないので、
みんな山の中に水のボトルを持って消えていく。
慣れるとこんなに気持ちいいものはないのだ。

何にもない、の贅沢。

人間に必要なものってそんなに多くないんだなあ、
と感慨にふけるのもつかの間、
夜凍えそうになって毛布を借りた。
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# by shantiriot | 2007-09-27 20:45 | 初インド旅エッセイ
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ヒンズー教の神、シヴァ神は、創造と破壊の神。
インドでは最も敬われている神のひとつだ。
そのシヴァが、妻パールバティと、
1000年ものあいだメイクラブしたと言われる渓谷、パールバティバリー。

砂漠地帯のラダック地方で一ヶ月過ごしたあと、
喉がかわいたように緑が恋しくなった。
予定を変更して二日間バスに乗って山を降り、マナリに帰ってくる。
やはりラダックから帰ってきたばかりの友人のバイクの後ろに乗せてもらい、
パールバティへ行く事にする。半日のドライブ。

あまりに久しぶりの緑の洪水で目の中がいっぱい。
ほんとにほんとに砂漠のグレー以外の色に飢えていた。

谷間をバイクで走りながら、
うれしさのあまり言葉にならない言葉でおたけびをあげる。
このときから、感動したらとりあえず絶叫、
ってのもシンプルで悪くないと思うようになった。

あまりに緑がうれしくて寄り道をしすぎたため、
思ったより時間がかかった。
暗くなってから、レンタルしたバイクのライトが壊れていることに気づく。
電池がなくなりそうな懐中電灯(インド製)の弱々しい明かりで
私がバイクの後ろから照らしながら、谷間をよろよろと走った。
すごく長い時間走った気がした。

次の朝同じところを通ってみた。ものすごい断崖絶壁。
知らぬが仏、ってよく言ったもんだ、と思う。

バイクを運転していた友人がつぶやく。
「孫ができたら話してやろう」
彼はとても若かったので、その前に子どもができたら、じゃないのか、
と突っ込みたかったけど、とりあえず同感。
私もいっしょにため息をついた。
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# by shantiriot | 2007-09-27 20:40 | 初インド旅エッセイ
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インドの北の北、ラダック地方へ向かう出発地点、
マナリの近くにバシシュトという村がある。
30分くらい森の中を歩いていくと、
岩肌を這うような、絵に描いたような美しい滝が突然現れる。

滝まで歩いて、
または馴染みのレストランの屋上で、
だらだら「滝に行く話」を一日中して、
夕方になると、村のど真ん中にあるヒンズー教のお寺の中にある温泉に入る、
というのが日課だった。

旅先で強烈なキャラクターにはたくさん会った。
なかでもトニーはすごかった。
インド在住25年のスウェーデン人で、
太極拳の先生。京都に住んでいたこともある大の日本好き。
日本の有名な尺八奏者がくれたという尺八を大切にしていた。
彼の演奏の巧みさに敬意を表してわざわざ作ってくれたんだそうだ。

中国の占いで、
コインを投げて占う「イーチン」を100%信じていて、
全てはそのお告げに従って25年間生きてきた。
「イーチンは、いつでも正しかった」きっぱり断言する。

この絵を描いた日、何人かいっしょに滝に行った。
トニーのいたゲストハウスの犬が、妙に彼になついていて、
滝までちゃっかりお供をしていた。

帰り道、激しい夕立ちに見舞われ、
転び続けて泥まみれになった。あまりに雨が気持ちよくて、
みんなびしょぬれのまま大笑いしながら
帰ってきた。犬もびしょぬれのまま実に楽しそうにくっついてきた。

そのまま寺の中にある温泉に直行。
すっきりしたあと、トニーの部屋に全員集合。
イーチンのお告げに従い、
トニーがデリーで買ってきた絵の具で、
5人いっせいに絵を描いた。

こんなにすっきりしたのは久しぶりだった。

見せるために表現するのではなくて「出す」ことが必要だったんだ、と思った。
出していいんだ、と思ったら自分でもびっくりするくらい楽になった。

「イーチンが絵の具を買えと告げたのは、
君のためだったんだよきっと。」
トニーに言われた。
中に渦巻くものは、出したほうがいい。
簡単だけど大切なこと。
彼は今でもフルパワーで、インド各地で太極拳の指導にあたっている。
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# by shantiriot | 2007-09-27 20:01 | 初インド旅エッセイ
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インドの北も北、ほとんどチベット、というくらい北にあるラダック地方。
世界で二番目に標高が高い道路で、マナリという街とつながっている。
この道路、雪のため、1年に4ヶ月しか開通しない。
その道路をバスでまる二日行くと、
ラダック地方の首都、レーに到着する。

私は、できたら歩道橋も避けて通りたいほどの高所恐怖症。
断崖絶壁をよろよろ進むバスは、
そりゃもうスリル満点で、ひんやりねっとりじっとり、
あまりありがたくない汗がでてくる。

標高5000mを越えると
さすがに頭のぐるぐるも加速せざるを得ない。
ぐるぐるしながら何度もうとうとする。
ふと目がさめる度に、
砂漠にそびえたつ山々は違う表情を見せてくれる。

山の斜面に風でできた模様が
まるでお城のバルコニーのようだったり、
赤紫の地層がスロープを作っていたり。
バスがふらふらカーブを曲がるたび、
おもちゃ箱を開けるようにわくわくする。

2日後、砂漠の景色に飽きてきたころ、
いきなりグリーンが見えた。畑の緑だ。
バスの中で歓声があがり、一気にみんな元気になる。
町中にレーの街が見渡せる高台がある。

登るのにゆうに30分かかる。
3000m以上の標高なので、30分登るのにも息がきれる。
やっとたどりついた展望台から見えたのは、
砂漠のなかに目が痛くなるような緑。

乾いた土に、しずくをぽってり垂らしたようなオアシスだった。
緑が目に痛いと感じられるのってなんて
幸せなんだろうと思った。
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# by shantiriot | 2007-09-27 19:50

RIO :天然石とシルバーの一点もの中心のジュエリーブランドShanti Riotのデザイナー。インドネパールを中心に旅しつつ制作しつつ、まったりとエキサイティングな日々を送っています。Home is where your heart is.


by shantiriot